【読書】AM/PM : アメリア・グレイ 嫌な奴と変な人を受け流す方法が書いてある(?)日常と非日常を繋ぐ掌編小説集。

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こんにちは、くれそんです。

 

ある朝、勤めている会社に、非通知設定で匿名の電話がありました。

クレーマーでした。下手に出て丁寧に応じる必要もない程度の。

 

 

五分程うだうだと何かを言い続けるクレーマーに、受話器の近くでペンの先をカチカチ言わせながら、取り付く島を与えない返事を僕がしていると、

「アホか! 出るとこ出たるぞ!」とクレーマーが最後に捨て台詞を吐き、電話は切れました。

 

 

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出るとこ出ると非通知匿名の意味が無くなってしまう、にも関わらず脅しをかけるクレーマー。

「こっちは夜勤明けで疲れとんねん。どう対処してくれんの?」と、自分のシフトの組まれ方を交渉材料にできると思っているクレーマー。

 

確かに夜勤明けで疲れているようでした。喋る内容の貧弱さも、張り上げているのに空気がどこかから抜けているような声も。

 

ちなみに、訴状は未だ届いていません。

 

 

♢ ♢ ♢

 

 

そんな事があった数日後、見知ら阿呆に当たり散らされた僕は胸糞悪くしながら、

 

AM/PM

アメリア・グレイ 著 松田青子 訳
144ページ 1,600円+税

を読んでいました。

 

 

この本の「訳者あとがき」で、翻訳した掌編集について解説している松田青子さんの言葉が、僕にはすごく沁み、

 

同時に、松田さんの言葉で、あのクレーマーに対する僕の見方が変わりました。

 

さみしい、と堂々と口に出すことのできる人は、今この世界にどれだけいるのだろうか。人間関係や恋愛関係を築くことの難しさや不確かさ、孤独や絶望がデフォルトであることを知ってしまった現代社会で、さみしい、悲しい、つらい、と叫んでも、物語性は生まれない。誰も真面目に耳を傾けてくれない。それはもう当たり前のことだからだ。

参照:AM/PM(河出書房新社)

 

 

40代か50代か。男の人の声でした。

 

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働く者は忙殺される日本で、その人もまた、夜中に忙殺されたのでしょう。なのに、

溜まったストレスを吐く場所も、不満や弱音を受け止めてくれる人も、困憊するまでの頑張りに対する見返りも、その人は持っていなかったのでしょう。

 

けれど、じゃあ自分の胸の中にある確かなこの気持ちをどうしたらいいのという時に、ある瞬間、人々は無意識に、〝普通〟から少しずれた、変なことをしたり、口に出したりしてしまうことがある。側から見ると脈略や意図が不明だったとしても、それはその人にとっては、人生に抗おうとする、決死の瞬間だ。

参照:AM/PM(河出書房新社)

 

 

ため息をついて部屋を見渡し、何かに書いてあったどこかの会社の電話番号が目に留まり、その人はボタンを押した―。

 

そうか。その人にとっての決死の瞬間。それがあのクレームの電話だったのか。

 

 

いい歳して、幼稚なクレームを入れる朝を迎えてしまった。いや、そんな朝を迎えざるを得なかった、その人が抗おうとする人生を想像して、

「毎日お疲れ様です」と言ってあげたいとすら、思ってしまいました。

 

非通知だったので、もう言えませんがね。

 

♢ ♢ ♢

 

 

街で見かけた変な人の変な言動。隙の無い完璧なあの人が仕出かしたミス。突然ぶつけられた支離滅裂な因縁。

僕で言えば、馬鹿さ加減極まるあのクレームの電話。

 

 

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目の前に広がる日常の中に、ほんの一瞬だけ、ひょっこり紛れ込んでくる非日常。

生きていると、たまにありますよね。

 

そんな、たまにある非日常なモノや出来事に遭遇するのは、AM/PM に収まる120個の物語の中に生きる彼ら彼女達も、また同じ。

 

♢ ♢ ♢

 

ズボラな生活を送るくせに肌荒れを気にするフランシス。その肌への対策として何故か三食魚だけの切り替えた。

性格も食生活もぶっ飛んだフランシスを、食事にもお茶にも誘わなくなった友人のミッシーとチャスティティ。

そうかと思えば、彼氏の家に裸で入り浸り、呆れ果てられると電話帳に顔を埋めて床の上で泣き喚くのは、ぶっ飛んだフランシスに呆れ果てていた、ミッシー。

チャスティティは、自宅で独りパーティードレスを着て、ベッドの上で騒いで食べ散らかして、翌日シーツを洗ってそれにくるまり眠ったりと―。

 

♢ ♢ ♢

 

相手の姿からは想像できない、相手との会話からは思い付きもしない、相手が人知れず抱えている苦悩。

燻り続けるその苦悩が心の外に溢れ出してしまったその瞬間

もしくは、悩みも苦しみも全てさらけ出していくと決めた人の生き様

 

 

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その人の決死の瞬間、その人の決死の生き様を目撃した時、僕達は日常の中の非日常を見るのかもしれないし、

僕達が誰かに非日常を見せる立場になる時だって、あるのでしょう。

 

そして、それって全部、正当な事なのかもしれない

 

 

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少なくとも AM/PM に描かれているのは、この構図であり、

非日常にいる人間、非日常を見せられる人間、見せる人間、

どの立場にも、どの立場に立っても、等しく、眩しいスポットライトが当たります―。

 

側から見ると脈略や意図が不明だったとしても、それはその人にとっては、人生に抗おうとする、決死の瞬間だ。

そしてそのギリギリの小さな瞬間を、アメリア・グレイは見逃さない。

参照:AM/PM(河出書房新社)

 

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クレーマーさん。夜勤、お疲れ様です。

 

 

 

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